頭の良さ

2014年04月22日

京大霊長類研究所で研究されているチンパンジーのアイちゃんがいます。以前彼女がしていたトレーニングが印象的でした。

まず、アイちゃんはタッチパネル式のモニターに向かって座ります。

次に、モニター上のあちこちに0~9の数字がランダムに写っていきます。一つの数字が表示される時間は0.45秒。人間なら読み取るだけで精一杯です。一旦写った数字の場所は、次々と四角くマスクされ、タッチボタンになって数字は見えなくなります。

さて、都合10個の四角いボタンが画面上のあちこちに出来上がったところで作業開始。アイちゃんは数字とその位置を正確に記憶していて、数字の小さいもの順にモニター上のタッチボタンを押していきます。驚くべきことに10秒ほどで!何度やってもほぼ正解。よそ見しながらしています。

表示される位置も数字も毎回完全にランダムにもかかわらずにです。これ、人間だとこの時間ではほぼ不可能。驚嘆しました。

いやあ、チンパンジーは頭が良い。しかし、このことだけをもとに「チンパンジーはヒトより頭が良い。」とはなりません。なぜなら、瞬間的に位置と形を把握し、処理する能力は、動物たちにとって、ある個体が外敵やエサを瞬時に判断し、行動して生き残るために必要不可欠な能力だからです。つまり、この「テスト」はチンパンジーにとってもともと「向いている」ものだと言えます。ただ、数字(記号)の概念を正確に操れるということだけでも驚異的だと言えますが。

ヒトはこの瞬間的記憶能力を鈍化させる代わりに「言語」を操り、言語を使って抽象的思考をしたり記録したり他者とコミュニケーションをしたりする能力を発達させてきました。この面でヒトはチンパンジーの比ではありません。「頭の良さ」といってもさまざまなものがあるのですね。

チンパンジーとヒトとの比較でもこうなのですから、「あの子頭がいいわ。」などという「頭の良さ」を単一的なくくりで表現することは意味がないと言えます。「オレ頭いいわ。」と思い込むことも、「ウチあほやから。」と思い込むことも、同じように愚かしいことです。

塾ではテストの数字で表現可能な分野のみの、「頭のよさ」を扱っているわけですが、この分野だけでも、生徒一人ひとりにはさまざまな「頭のよさ」があります。例えば暗記は苦手だが論理的には思考できる、言語を使った抽象的理解は苦手だが計算能力は高い、というように。ただ、学力という点では、暗記、論理的思考、抽象的思考、数学的計算能力、どれかが極端に苦手だと数字に表れにくい。生徒一人ひとりの「頭のよい」面と苦手な面とを把握して教えていけるようにするには・・・、となかなかできそうにないことを考えたりしているわけです。

ちなみにヒトの多様な「頭のよさ」のなかですべてに優先するものをあげるとすれば、それは「好奇心」ではないかと思っているのですが・・・どうでしょうかね。